路線バスには乗客のうち誰か一人は必ず降りるバス停がある。駅の近くとか、病院の前とか。そういう時の「降ります」ボタンを押すタイミングは難しい。前の停留所を過ぎてからすぐに押してしまっては「誰にも押させないぞ」といっているようだし、逆に周りを伺いすぎて停留所の直前までボタンがつかないと自分のことは棚にあげて「誰か押せよ」というムードが漂うし、さらにちょうど良いタイミングでいざ押すぞと手をボタンにかざした瞬間に他の人に押された時の間の悪さといったらない。

だから前のバス停を過ぎて、車内アナウンスが終った絶妙なタイミングでたった一人の乗客によってボタンが押されたりすると、私は車内に一種の一体感のようなものを感じて少し幸せになってしまう。
しかし、自ら率先してその役を買うことは、まずない。